鉄道というものは、各種のサブシステム(ハード・ソフト)からなる一大システム。列車の運行はその頂点かもしれないが、全てではない(列車の運行には直接関係しない、企業維持に係るシステムもあるだろう)。だが、列車の運行が鉄道システムの利用客にとって最も関心ある事柄であると言って問題はなかろう。
本書の面白いところは日本の風土的、歴史的背景を検証し、「定時運行」が求められるようになったゆきさつを掘り下げている点ではあるが、一番関心を惹いたのは(当然ではあるが)実際の運行について、企画段階からの鉄道関係者による検討や実現の努力を記述している点だった。本書の参考文 献一覧にもある阪田貞之「列車ダイヤの話」(中公新書)を先に読んでおいた方が、理解は早い。自慢になっちゃうがアタシャ中学生の時に読んでたよ、これ。
この本が書かれたのは数年前、その後あの忌まわしい福知山線事故が起こり、最近は定刻運転への過剰なプレッシャーはなくなったと報道されている。通勤時間帯、自分の乗る電車は(例え故障や支障が起きていなくても)数分遅れることが日常化してきた。それって問題なの?問題じゃないの?たかが数分、されど数分。正確な列車運行は鉄道員の誇りでありDNAのはず。本当に放棄しちゃって良いものだろうか。ついでに書けば、定時運行は鉄道員のみならず、全ての運輸機関の職員全員に共通するDNAだと思う…少なくとも日本に於いては。
最終章で書かれた「鉄道の未来図」は一つのアイディアであるが、そこに描かれた運転形態が(仮に可能になったとしても)本当に便利なものか、疑問を禁じえない。「好きなタイミングで、好きな方向へ」は電車のタクシー化を意味するが、そうした運転形態に伴う列車編成の分割損、エネルギー消費量の増大に何も触れていない所は片手落ちといえよう。それ以外にも本文中の記述(最近の運転技術とか筆者意見とか)に対して「そうかな?」と思う部分は幾つもあったけど。
とは言え本書は列車の定時運行を維持する多くの関係者へのオマージュであり、そういう人々にこそ読んでいただき今一度仕事に誇りを取り戻して欲しいものだ。そして、鉄道のみならず、全ての公共交通機関の仕事に携わる方々に。
2006年5月31日 ラッシュの東海道線車中にて読了
